てこ
金融危機の話でよく出てくる言葉に「レバレッジ」がある。ヘッジファンドや投資銀行が、手元の1億円を元にたとえば10億円の取引を行うことを、「10倍のレバレッジを効かせている」と表現する。したがって、市場が見込み違いの方向に動くと莫大な損失を被り、今回のようにばたばた破産するというわけである。
レバレッジを日本語に訳すと「てこ」である。そのため、FXの本などでもさかんに「てこの原理」という言葉が出てくる。だが、正直、この説明がピンと来る人はいるのだろうか。なぜって、典型的なてこというのは、釘抜きや、長い板や棒で重い物を動かすときのことを考えればわかるように、小さな力でも大きな距離を動かすことで、反対側の――人間の力ではとても抜けない釘を抜いたり、とても持ち上がらないものを持ち上げたりするのに使うものだ。ただ、反対側での移動距離はそのぶん小さい。つまり、てこの原理と言われて普通に想像するのは、「大きな距離が小さな距離になる」ことである。これでは1億円で10億円運用するのと、まるで逆ではないか。
なるほど、釘抜きの釘側に強い力をかければ、反対側の取っ手は大きく持ち上がるが、そんな使い方はしないだろう。
要するに、てこの原理などと言われても、余計にわかりにくくなるだけなのだ。なのに、FXの入門書などは、鬼の首でも取ったように「てこの原理で、10倍、場合によっては100倍の金額の取引を行える」と書いて一件落着である。どの本を見てもそんな説明ばかりなのは、なにか元本をパクりっているのか、あるいはレバレッジを訳してみただけなのか。中国在住ライターの山谷さんが、中国のサイトや新聞はパクリばかりだというお話をどこかで書いておられたが、日本の専門書も同様である。大事なのはなぜ10倍や100倍の取引ができるのか、ということであるはずなのに、てこの原理で説明した気になっている。
下の記事は、「てこ」を正しい意味で、わかりやすく使っていて好感が持てた。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20081021-OYT1T00416.htm?from=top