「サウジ石油の真実」という本を書かれたマシュー・シモンズさんが昨年なくなられていたことを今頃知りました。合掌。
この本は、「サウジアラビア政府が言う石油の埋蔵量は信用できない。油田の生産能力はそろそろピークを越えつつあり、サウジには新しい油田は発見されていない」といった内容。いわゆる「ピークオイル論」(石油生産はそろそろ・もうじきピークを迎え、油田が衰えるにつれ、世界の石油生産量は減っていくぞ。備えないとまずいぞ)を唱える著名人の一人とされています。
ただ、ピークオイル論は、長らく「妄想だ、陰謀だ、環境原理主義者の煽り文句だ」とされてきました。一番よくある反論は、「掘削技術の進歩で、今までは回収できなかった油田の原油がどんどん回収できるようになり、事実上の埋蔵量がどんどん増えている。今後もどんどん増える。もうじき枯渇するなんてありえない」という話です。たとえばこんな論調。 http://cruel.org/economist/oil/lotofoil.html
ちなみに上の記事のタイトルは当初、「だから原油は枯渇しませんったら!」でした。
私はこういう論調にずっと、とても大きな違和感を抱いてきました。だって、実は今も石油は地下で毎年毎年どんどん生成されていて、それは、現在人類が消費する量に匹敵する量だ、というのであれば話は別ですが、そうではなくて、有限な資源であるなら、「いつか」石油が枯渇することはどう考えたって明らかではありませんか。
特に、石油業界に近い人ほど、ピークオイル論を、むきになったように否定することに、違和感がありました。「最新の掘削技術の進歩も知らずに適当なこと言ってんじゃないよ!」というような感情的なものかなとも思いましたが、それにしてはずいぶん強い言い方で否定する人が目立つように思います。
もうひとつ不思議なのは、世界最大の産出国、サウジアラビアは、イラク戦争とかイランへの制裁措置などで、世界の原油供給量が減って、原油価格が上がったりしそうになると、増産をして、石油価格を安定させようとすることです。
そんなことをしないでいれば、石油の値段が上がってサウジアラビアの利益になるのに、どうしてわざわざ利益を減らすようなことをするのでしょうか。世界の原油供給を仕切るフィクサーとしての体面と、国防などでアメリカに世話になっていて、アメリカが困るようなことをするわけにはいかないという事情なのかなとも思いましたが、そこもどうも腑に落ちません。
しかし、日経ビジネスのこの記事によると、どうやら昨今は、ピークオイル論に対しての合意が進みつつあるようです。この記事の結論では、ピークオイルは早ければ2014年、そうでなくても、2020年くらいには訪れそうだということです。まずいです。本当に時間がありませんよ。
この記事を見て、ふたたび、なぜピークオイル論が否定されてきたかを考えたら、ようやく腑に落ちる解釈ができました。
要するに、石油は何十年も安定して供給できますよ、と言えば、みんなは、じゃあ安心して石油を使おう、と思います。実際に産出量が減ってきて、需要が多くて、値段が上がったら上がったで、供給者側は損をしません。「埋蔵量いっぱいあるって言ったじゃないか!」なんて言ったところでどうにもなりません。「予想に反してこれだけしか生産できません」と言われれば終わり。必要ならお金を出して買うしかありません。
ピークオイル論が世間に広く同意されると、「では代替エネルギーを開発しなくちゃ」というアクションにつながります。その結果、石油への依存は多少は減るでしょう。熱心な研究開発によって、万一、比較的安価で潤沢な新しいエネルギーでも登場した日には、石油の売り手は存亡の危機に直面します。だから、声をからして「大丈夫」と言い続けているのです。
そう考えると、サウジアラビアが「うちの埋蔵量はこんなにあります! 石油価格は責任を持ってコントロールします!」というのもうなずけます。
……結果的にこの、ピークオイル論をカルトみたいにして押しやってきたことで、新エネルギーの開発はどれくらい遅れたのでしょう? 仮に2020年だとしても、生産がピークを打ったとして、世界は対応できるのでしょうか? ピークオイル否定論者の罪がどれほど大きいかは、これから明らかになってきますね。
3月 22nd, 2012 | Category: エコ, 経済 | Leave a comment