Book: 雷の季節の終わりに
デビュー作、夜市(&風の古道)を読んで仰天したので、新作のこれもさっそく買ったのに、読まずに延び延びになっていた。
恒川光太郎さんの2作目。ファンタジックホラー? ホラーでもないか。
「穏」という名の、この世と切り離された世界に過ごす少年の物語。「穏」の世界の描写は……前作の完成度と比べるとやや残念。風わいわいや墓町といった言葉のギミックの切れ味は相変わらずすばらしいが。別世界という設定が、もうひとつ読者にとっては身近感を欠く。夜市や風の古道は、この世のすぐそばにあるかも、と思わせるところが魅力を増幅しているのだが、それがないのは痛い。
前作に比べると、格段に人が描けているとは思う。ただ正直言って、そのぶん、痛々しかったり、泥臭かったり、その、前作全体に張り詰めていた凜とした緊張感が若干失われているように思えるのも、少し残念。また、エンディングに至り、あまたの伏線が細部の細部に至るまでぴたりと符合する前作に比べると、そこも少し緩い気がする。まあ、直木賞を狙うには人が描けていないとダメらしいし(私は人よりも世界を魅力的に描いてほしいほうだが)、ワザが増えたことで次以降でまた面白い化学反応があることを期待したい。78点。