ビッグマック指数
イギリスのEconimist誌が提唱するビッグマック指数(Bigmac Index)をご存じだろうか。
http://www.economist.com/finance/displaystory.cfm?story_id=11793125
世界のたくさんの国で、マクドナルドがビッグマックを売っています。仮に中身がまったく同じだとすると、それに対して支払われるお金の価値は等しいはずである。つまり、日本でビッグマックを買える280円というお金の価値は、米国でビッグマックを買うのに必要な3.57US$と同じはずではないか……という理屈で、世界各国のお金の本来あるべき価値を導きだし、現在の為替レートがどれほど歪んでいるかを示そうというものだ。
280円と3.57ドルが同じだとすると、1ドルの価値は78円相当になる。しかし実際には、今日も円高が進んで大騒ぎをしているものの、まだ97円である。つまり、ドルの交換レートは、本来あるべきレートより25%ほどの過大評価されている。
しかしドルはまだいいほうだ。実はついこのあいだまで、いろいろな国の通貨が、日本円と比べた場合、3割4割は当たり前、ひどいものは2倍、3倍というレートになっていた。たとえばアイスランドではビッグマックが469クローナする。ここから逆算すると、1クローナの価値は0.6円くらいなのだが、レートは2円近かった。3倍以上だ(だから、アイスランドに旅行してビッグマックを買おうとすると、940円もすることになってびっくりする)。その原因は、アイスランドが13.5%(最後は15%)という高金利を実施していたため、アイスランドクローナを買って金利をもらおう、という資本が世界中から集まり、アイスランドクローナが高騰していたからだ。
しかし、このような不自然な形で資本を集めて、本来の価値から 乖離した通貨は、いつかそのメッキがはげおちる日が来る。
下の図は、ビッグマック指数による本来あるべきレートを100%とし、各国通貨が対日本円で、どれほど過大、あるいは過小評価されていたか、またその時間的な変化を示したものである。
ごらんのとおり、300%を超える無茶なレートになっていたアイスランドクローナは、先日ほぼ破綻し、今では本来価値の70%ほどになってしまいました。これからIMF管理下ですが、どこまで下がることやら。また、昨年は、ロンドンの地下鉄は1乗車が1000円だ(1ポンドが250円で、1乗車が4ポンドなので)というのも話題になりました。「これはポンドが高いのではない。ユーロも同じように高い。日本円が安いのだ。日本は金融が弱いから、通貨も途上国並みの扱いになってしまったのだ」などという経済学者もいたようですが、これは、ロンドン地下鉄の料金システムに関する無知(後述します)に加え、ビッグマック指数を見れば明らかに不自然な形でお金が集まっていただけの――ただのバブルであることに気がつかなかった、まことに的外れな意見でありました。案の定、サブプライムの火はまっさきにイギリスに飛び、今では本来レートの130%ほどに落ちています。もちろん、まだ落ちるでしょう。
ちなみに地下鉄についてですが、ロンドン地下鉄では、日本のSuicaやPasmoのような、非接触式のICカード乗車券「Oyster Card」が普及しています。そもそも鉄道業者にとっては、紙のチケットを使われると、改札機のメンテナンスがたいへんでお金がかかるので、一刻も早くみんなIC化してほしいと思っています(可動部分がないので故障がほとんどなくなる)。そこで、紙のチケットだと初乗り4ポンド、ICカードだと1.5ポンド、という差をつけたのです。おかげで利用者の80%だか90%だかはICに移行したそうです。それを知らない観光客が紙のチケットを買うと「えっ、4ポンド!」と驚くわけですが、そんな乗り方をしている人はごく少数なのです。また、本日のレートでは1ポンドは157円なので、1.5ポンドなら235円。まだ東京メトロや都営地下鉄よりは高いですが、地方都市ならこれくらいするところもありますし、目の玉が飛び出るような値段ではありません。もう少しポンド安が進めば、だいたい日本と同程度になるでしょう。別に日本円は途上国通貨になんか、なっちゃいないのです。
韓国人が大量に日本観光に訪れるきっかけになったウォン高。一時は150%ほどになっていましたが、今では半値に落ち、破綻もささやかれる昨今です。しぶとく高値を維持していたユーロも、9月以来大幅に落ちてきました。それでもまだ150%。
一方、高金利で人気のニュージーランドドルは、170%から、ついに適正水準の100%に落ちました。途上国通貨は過大評価されにくいなか、17%という法外な金利で180%近い評価を得ていたトルコリラも、ほぼ100%まで落ちました。オーストラリアドルに至っては75%ほどと、ちょっと落ちすぎにも見える水準です。南アフリカランドは、もともと適正水準だったのに半値に落ち、いまや50%。そんななか、中国元と密接な関係の香港ドルは、もとの評価が低いとはいえ、中国の潜在成長力を反映してか、さすがにほとんど落ちていません。
こうしてみると、バブルのような不自然な状態が解消すると、通貨のレートはビッグマック指数のような、一物一価的な水準に近づくことがわかります。今回世界中でバブルが弾けつつあるわけですが、こうしてみると、まだ多くの通貨は値が底ではないことがうかがえます。各国は明らかに日本より痛んでいるわけですから、すべて100%を切るところまでいくでしょう。ユーロはまだ大きく落ちますし、ドルも80円を一度は切るでしょう。なにより不可解なのはスイスフラン。確かに独得の安心感があるとはいえ、UBSもかなりダメージを食らっているようですし、いまだに本来レートの2倍というのは高すぎる水準です。なにかのきっかけでスイスフラン(CHF)大暴落もあるかもしれません。逆に、オーストラリアは早めに金利を下げるなど手を打っていますし、水準もかなり低いので、今どうしても何か買うなら、一番問題はなさそうには見えます。
(筆者は分析結果に一切の責任を負いません。投資は自己責任でお願いいたします)。ミシェル野口
11月 6th, 2008 at 11:19 PM
[...] 先々週の大暴落の前の日に、ビッグマック指数の適正値に近づく各国通貨の話を書いたら、びっくりするほどのアクセスがあった。ただ、その趣旨でいえば、ドルは78円、ユーロは83円を [...]